【序章】タイの不動産業界と基礎知識を理解せずに投資しないために

弊社代表で本講座を執筆しております、西尾靖と申します。

私は約20年前に海外不動産投資に出会い、過去にASEAN地区を中心に1,000ユニットのほどの海外不動産販売に関わってきました。タイには15年前に移住して、不動産とは異業種のOrient Medical Group Co.,Ltd.を事業譲渡にて2012年に購入、不動産事業へと転換し、現在は「OMG Real Estate Co., Ltd.」として運営しております。

これまでタイでは、不動産販売に加え、主にコンドミニアムの管理業務にも従事し、一時は700ユニットを超える管理物件を扱っておりました。しかしながら、新型コロナウイルスの影響により大きな打撃を受け、2020年にチョンブリ県シラチャへ拠点を移転、その後2021年よりパタヤにて事業を再構築し、現在に至っております。

右往曲折を経て、様々な経験を通じて今感じていることとして、日本人を取り巻く海外不動産投資の環境は、この20年で大きく変化したという事実です。

時代は20年前の日本、日本の不動産投資家は日本の将来の人口減少を見据えて、日本円だけに頼ることなく、ASEANの成長エスカレーターに乗り、ポートフォリオの一環で、外貨で家賃収入を得るという当時では画期的な考え方が注目されていました。その後の歴史的な円高も追い風となり、日本人による海外不動産投資が活発に行われた時期でした。

あれから20年、タイに長く身を置いている立場からすると、否応なしに肌で感じますが、日本経済の変化や円の相対的な弱体化は、日本で報道されるよりもっと加速度的に進んでいるとしか思えません。私が移住した2011年は日本円とタイバーツの為替相場は、1バーツ=2.5円で、街中の両替所で換金すると1万円は4,000バーツになりました。現在2026年4月現在の為替相場は、1バーツ=5円となり、1万円は2,000バーツにしかなりません。

2011年から2026年の15年間のタイ国内CPI(消費者物価指数)は、およそ130%前後と言われておりますので、タイ国内の物価上昇(CPI)が約30%であったとしても、日本円ベースでは為替の影響により約2倍の上昇が発生しており、結果として約2.6倍(+160%)のコスト増となっています。これは日本人にとっての実質的なタイ物価上昇を示しており、わかりやすくいうと、2011年に10,000円で買えたものが、2026年には約26,000円必要ということになります。不動産なら1,000万円で購入できていたクオリティーの物件が2,600万円必要となりますが、コンドミニアムの上昇率はもっと高く、実質的は3倍になっているイメージでおよそ大きく間違っておりません。

かつては日本人の方が経済的に優位であった場面も、現在ではその差が縮まり、タイの富裕層が日本人以上の消費を行う光景も日常的に見られるようになっていますし、日本人の貧困化が進み、タイ人ワーカーとの格差がほぼなくなりつつあるように感じます。

私が日本に一時帰国する度に10年前頃から感じていた違和感は、現在ほぼ現実のものになりつつあります。違和感とは、日本のレストランなどで食事した際に支払う金額の安さ、百円ショップやショッピングモールに並ぶ安価でクオリティの高い商品の数々、そしてわずかな値上げに対する日本社会全体の敏感な反応です。商品やサービスの値上げを認めず、非難していたツケが現在の日本の構造的背景にあり、結果その恩恵を外国人が受けており、インバウンド需要の拡大により一見活況を呈しているように見えるものの、少子高齢化に伴う社会保障負担の増加など、長期的な課題も存在しており、これらを鑑みて、本当に多くの日本国民のためになっているのだろうか?と疑問を感じずにはいられません。

こうした背景から、日本国内に資産を集中させるのではなく、海外にも生活拠点や資産を分散させるという考え方は、現在においてより現実的な選択肢の一つとなっています。

特に近年、タイ不動産を購入される日本人の多くの方は、純粋な投資目的だけでなく、「二拠点生活」や将来的な移住を視野に入れています。

日本の一番寒い時期の11月から2月、3月頃はタイの平均気温は30℃弱、季節は乾季にて雨もほとんど降らず、朝晩は涼しいぐらいと過ごすには最高の季節です。そんな時期に寒い日本を脱出して、タイにVISAを取得して滞在、そして桜の咲く頃にまた日本に戻り、日本が夏本番を迎える7月、8月はタイの方が涼しいので、日本の酷暑を避けて、タイに滞在しながら、タイのリゾート地や近隣諸国のベトナム、マレーシア、シンガポールや足を伸ばしてモルディブ、ヨーロッパなどを旅する方も増えております。

タイ人の95%は従順な仏教徒で、過去には日系企業の支えがあり、タイの経済が成り立っていたこともあり、日本や日本人へのリスペクトはまだ健在です。タイ人が一番訪れたい海外は日本です。そんな微笑みの国タイに魅了されて、多くの日本人が移住をしているのが今のタイです。不動産投資としてのタイ不動産が魅力がなくなったわけではないですが、現在の為替レートなども考慮して、弊社としては現在単純にタイへの不動産投資を目的とした購入ではなく、将来的な移住も目的にしたタイ不動産購入(投資)を推奨しております。

現在、日本国内の販売会やインターネットを通じて多くのタイ不動産が紹介されています。

それらを否定するものではありませんが、「それが本当にご自身にとって適切な物件なのか」を冷静に見極めることが何より重要です。

本講座は、その判断を行うための基礎知識を提供することを目的としています。

不動産は「個」と「環境」を購入するものです。

  • 「個」:物件そのものの品質(内装・外装・共用部・管理状況など)
  • 「環境」:立地や周辺環境(利便性、景観、インフラ、生活施設など)

この二つの要素によって、不動産の価値は大きく左右されます。

実物を確認せずに高額な不動産を購入することは、大きなリスクを伴います。

完成前物件(プレビルド)であっても同様であり、少なくとも同一デベロッパーの既存物件を複数確認した上で判断することが重要です。

冒頭に申し上げた通りに、私は海外不動産販売に20年ほど携わっており、日系も含めたデベロッパーの失敗案件もたくさん拝見して、その敗戦処理もたくさん行なってきました。そのプロジェクトのユニット数も1,000は確実に超えます。つまり1,000人近い日本法人、日本個人投資家が損失を出した事実だけが残っております。その解決のために、タイで数多くの係争事案を経験して、現場で自分の目ではっきりとその一連のストーリーを直視して、タイでの不動産投資の失敗法則だけは完全に理解できました。

これまで私は、「自分に関係のない投資判断には関与しない」という立場でおりました。

しかし現在でも、十分な情報や理解がないまま販売されている物件を目にする機会があり、このままでは同様の損失を被る日本人投資家が今後も増えてしまうと感じています。そして実際に、数年後にご相談をいただいた時には、すでに打つ手が限られ、「損切り」という選択肢しか残されていないケースも少なくないだろうことは想定できます。

本講座では、そうした事態を未然に防ぐために、タイ不動産の基本から実務的なポイントまでを、実体験に基づいて解説していきます。