最終章の前編では、2026年以降のタイ不動産投資において、バンコクとパタヤをの市場をどう見極めるべきか、そしてデベロッパーの判断基準についてお伝えしました。
後編では何を買うべきか、何を避けるべきかについてまとめました。
投資判断では「利回り」より先に家賃を見る
タイ不動産の販売資料では、高い表面利回りが示されることがあります。しかし、利回りは家賃と購入価格から計算される結果にすぎません。最初に確認すべきなのは、表示された利回りではなく、本当にその家賃で貸せるのかです。
販売会社が想定する家賃ではなく、
- 同じ建物
- 同じ間取り
- 同じ階数帯
- 同じ家具・室内状態
の実際の募集事例と成約事例を確認します。
募集家賃と成約家賃は異なります。月額3万バーツで募集されていても、実際には2万5,000バーツで成約している可能性があります。また、年間を通じて満室になるとは限りません。
タイの不動産投資では、最低でも次の費用を考慮する必要があります。
- 空室損失
- 仲介手数料
- 共益費
- 修繕費
- 家具・家電の交換
- エアコン清掃・修理
- 固定資産関連税
- 保険
- 管理代行費
- 送金・為替費用
- 売却時の税金と手数料
表面利回りが6%であっても、これらを差し引いた実質利回りが3%台になることは珍しくありません。
高い利回りを示す物件ほど、空室、管理、立地、建物品質などに問題がないか確認する必要があります。
3つの価格を比較する
購入価格が妥当か判断するためには、次の三つの価格を比較します。
① 新築販売価格
現在デベロッパーが販売している価格です。キャンペーンや家具、登記費用などの特典も含めて比較します。
② 中古売出価格
同じ建物や周辺建物で、個人所有者が売りに出している価格です。
ただし、売出価格は所有者の希望価格であり、実際に売れた価格ではありません。
③ 実際の成約価格
可能であれば、登記価格や実際の売買成約事例を確認します。最も重要なのは、この実際の成約価格です。
不動産ポータルサイトには、長期間売れていない高値物件も掲載されています。売出価格だけを見て、
「周辺は1平方メートル当たり15万バーツだから、この物件は安い」
と判断するのは危険です。
実際には、掲載されている物件が何年間も売れておらず、成約価格が1平方メートル当たり11万バーツという可能性もあります。買う時には、過去の高値ではなく、今日売却するとしたらいくらになるかを基準に考えます。
出口戦略は購入前に決める
不動産投資で最も重要なのは、購入時の価格だけではありません。どのように保有し、最終的に誰へ売却するかを、購入前に考える必要があります。タイ不動産では、売却先として主に次の四つが考えられます。
① タイ人の自己居住者
住宅ローンを利用する可能性が高いため、価格帯とローン審査が重要です。高すぎる物件は、買いたい人がいても融資を受けられません。
② タイ人投資家
家賃利回りと将来の売却可能性を重視します。周辺家賃に対して価格が高ければ、購入対象になりにくくなります。
③ 外国人投資家
外国人名義枠、立地、賃貸収益、為替、送金証明などが重要です。外国人枠が使えない物件は、外国人への売却が難しくなります。
④ 自己利用を目的とする外国人
眺望、生活利便性、室内状態、建物管理、周辺環境などを重視します。利回りが多少低くても、本人が気に入れば購入する可能性があります。
購入時に出口を考えるとは、
「将来、誰がこの部屋を買うのか」
を具体的に想像することです。
買主候補が一種類しかいない物件は、市場環境が変わった時に売却が難しくなります。タイ人にも外国人にも需要があり、賃貸と自己利用の両方に対応できる物件ほど、出口の選択肢が多くなります。
投資期間は以前より長く考える
2018年、2019年頃までのタイ不動産では、完成前に購入し、完成時または完成直後に売却する投資も行われていました。
しかし、現在の市場では短期転売を前提とする投資は難しくなっています。
購入時には、
- 登記費用
- 税金
- 仲介手数料
- 家具費
- 改装費
- 為替差
- 売却期間
が発生します。
価格が数%上昇しただけでは、これらの費用を回収できません。今後のタイ不動産投資では、最低でも5年程度、可能であれば7年から10年程度の保有を想定し、その間の賃料収入で投資を成立させる考え方が必要です。短期間で値上がりしなければ失敗する物件ではなく、価格が横ばいでも賃貸収入によって保有できる物件を選ぶべきです。
借入れを使う場合の注意点
借入れを利用すれば、少ない自己資金で大きな資産を保有できます。一方で、市場が下落した場合には損失も拡大します。
特に注意したいのは、
- 変動金利
- 為替変動
- 空室
- 修繕
- 売却価格の下落
が同時に発生するケースです。
例えば、家賃収入で住宅ローンを返済する計画であっても、入居者が退去すれば、その期間は自己資金から返済しなければなりません。さらに、修繕費や家具交換が重なる可能性もあります。
借入れを利用する場合には、
- 6か月から12か月分の返済資金
- 共益費
- 修繕費
- 税金
を別途確保しておく必要があります。
「入居者がいれば返済できる」という計画ではなく、一定期間、入居者がいなくても保有できるかを基準に考えます。
不況時に価格交渉をする方法
売れない時代には、購入者側の交渉力が高まります。ただし、単に大幅な値引きを要求すればよいわけではありません。
まず、次の情報を集めます。
- 同建物の販売在庫
- 過去の購入価格
- 現在の募集価格
- 実際の家賃
- 室内修繕の必要額
- 所有者のローン残高
- 売却理由
- 売却期限
- 名義区分
- 登記費用と税金
売主が価格を下げやすいのは、
- 急いで現金化したい
- 海外へ帰国する
- ローン返済が厳しい
- 長期間空室である
- 複数の物件を保有している
- 相続や離婚などで処分したい
- 他の投資へ資金を移したい
という場合です。
一方、売主に売却を急ぐ理由がなければ、大幅な価格交渉は難しいことがあります。価格交渉では、感覚的に「高い」と伝えるのではなく、
「同じ建物の同じ面積がこの価格で販売されている」
「室内修繕にこれだけ必要である」
「現在の家賃から逆算するとこの価格が妥当である」
という根拠を示すことが重要です。
買ってはいけない物件の共通点
2026年以降の市場で、特に避けるべき物件には共通点があります。
① 購入理由が将来の値上がりだけ
家賃収入や自己利用の価値がなく、値上がりしなければ成立しない物件は危険です。
② 想定家賃が周辺相場より高い
販売会社の家賃保証や想定利回りだけで判断せず、実際の市場家賃を確認します。
③ 出口が外国人投資家だけ
外国人需要が減少した時に売却できなくなります。
④ 同じ建物内に大量の売出物件がある
売却時に価格競争となり、値下げしなければ売れない可能性があります。
⑤ 管理状態が悪い
室内を改装しても、建物全体の管理が悪ければ資産価値は維持できません。
⑥ 共益費が高すぎる
豪華な共用施設は魅力的ですが、将来の維持費と修繕費が所有者の負担になります。
⑦ デベロッパーの説明だけで購入する
第三者の市場データ、登記情報、周辺家賃、管理状況を確認する必要があります。
⑧ 将来の大型開発だけを根拠にする
高速鉄道、空港、ショッピングモールなどの計画は、延期や変更の可能性があります。完成時期と事業主体を確認し、現在の需要だけでも投資が成立するかを判断します。
今、買うべき物件の共通点
一方、現在の市場でも、購入を検討できる物件には次の特徴があります。
- 完成済みで現物確認ができる
- 賃貸需要が実在する
- 現在の家賃で収支が成立する
- 周辺の中古相場より割安
- 建物管理が良好
- 外国人名義で購入できる
- タイ人と外国人の双方に売却可能
- 改装によって競争力を高められる
- 空室でも維持できる
- 5年以上保有できる
- 売主が現実的な価格で売却を希望している
- 同建物内の在庫が過度に多くない
最も重要なのは、購入価格に安全余地があることです。不動産市場の将来を完全に予測することはできません。しかし、現在の市場価格より十分に安く購入できれば、将来価格が多少下落しても損失を抑えられます。反対に、将来の値上がりをすべて先取りした価格で購入すれば、市場が横ばいでも損失が発生します。利益は売却時ではなく、購入時にある程度決まります。
購入前に確認する最終チェックリスト
購入を決定する前に、最低限、次の項目を確認してください。
物件について
- 所有権証書の内容
- 所有者名
- 抵当権や差押えの有無
- 外国人名義枠
- 実測面積
- 家具・設備の状態
- 漏水やひび割れ
- 眺望が将来遮られる可能性
- 騒音
- 日当たり
- エアコンや給湯器の状態
建物について
- 築年数
- 管理会社
- 管理組合
- 共益費
- 修繕積立金
- 大規模修繕履歴
- エレベーター
- プール
- 駐車場
- 空室率
- 売出物件数
- 短期賃貸に関する規則
収益について
- 実際の成約家賃
- 想定空室期間
- 仲介手数料
- 管理費
- 修繕費
- 家具交換費
- 税金
- 保険
- 実質利回り
売却について
- 想定買主
- 外国人への売却可能性
- タイ人への売却可能性
- 住宅ローン利用可能な価格帯か
- 同建物の売出在庫
- 実際の成約価格
- 売却に必要な期間
- 税金と登記費用
デベロッパーについて
- 過去の完成実績
- 工事遅延の履歴
- 財務状態
- 完成在庫
- 借入金
- 社債償還
- 土地の権利
- 建設許可
- EIA
- 契約書の返金条件
すべての項目が完璧な物件はありません。重要なのは、問題点を知らずに購入するのではなく、問題点を把握したうえで、それが購入価格に反映されているかを判断することです。
2026年は危機なのか、機会なのか
2026年のタイ不動産市場は、決して簡単な市場ではありません。タイのコンドミニアム市場は2025年に過去10年間で最も弱い水準に落ち込んだと報じられ、完成済みの売れ残り、融資の減少、新規供給の縮小が続いています。外国人需要も完全には消えていませんが、購入単価は低下しています。
2025年は外国人の購入戸数が増えた一方で、取引総額は減少しました。つまり、外国人投資家も以前より価格に慎重になり、高額物件を無条件に購入する市場ではなくなっています。この市場環境を「危機」と見るか「機会」と見るかは、購入者の立場によって異なります。値上がりだけを期待し、借入金を最大限利用し、販売会社の説明だけで物件を購入する人にとっては、非常に危険な市場です。
一方で、
- 現金または十分な自己資金がある
- 長期保有ができる
- 賃貸需要を調査できる
- 価格交渉ができる
- 建物を管理できる
- 改装によって価値を高められる
- 出口戦略を考えられる
という投資家にとっては、過去の好況期には購入できなかった条件で、優良物件を取得できる可能性があります。
不況時には、良い物件と悪い物件の両方が値下がりします。重要なのは、値下がりした物件を買うことではありません。価値のある物件が、価値以下の価格で売られている時に買うことです。
これからのタイ不動産投資に必要な考え方
これまでのタイ不動産投資では、
「タイ経済は成長する」
「人口が増える」
「外国人が増える」
「鉄道が延伸する」
「不動産価格は上昇する」
という大きな物語が、購入判断の根拠となっていました。
しかし、これからは国全体の成長だけに期待することはできません。
必要なのは、物件単位で判断することです。
これからのタイ不動産投資では、次の5つを重視してください。
① 収益性
現在の家賃から、すべての費用を差し引いても収益が残るか。
② 資産性
立地、眺望、面積、管理状態など、その物件に長期間残る価値があるか。
③ 流動性
売却したい時に、現実的な価格で買主を見つけられるか。
④ 耐久性
空室、修繕、金利上昇、市場下落が起きても保有を続けられるか。
⑤ 出口
誰に、どのような理由で買ってもらうのかが明確か。
この5つのうち、どれか一つだけが優れていても、良い投資とは限りません。
高利回りでも売却できなければ、資金を回収できません。
立地が良くても購入価格が高すぎれば、収益が残りません。
価格が安くても賃貸需要がなければ、長期間の空室になります。
不動産投資は、価格、家賃、立地、管理、出口の総合判断です。
おわりに
「誰でも儲かる時代」から「選んだ人だけが残る時代」へ
ここまで、タイ不動産講座をご覧いただき、誠にありがとうございました。
この講座では、タイ不動産の基礎知識から、購入手続き、税金、収益計算、管理、売却、そして2026年現在の市場環境までを解説してきました。
現在のタイ不動産市場は、過去のように、どの物件を購入しても価格上昇が期待できる市場ではありません。完成在庫は増え、住宅ローン審査は厳しくなり、家計債務は高い水準にあります。外国人投資家も以前より慎重になり、デベロッパー各社も新規開発より在庫処分や財務改善を優先するようになっています。
しかし、不動産市場が厳しいからといって、投資機会がなくなったわけではありません。市場が好調な時には、物件の本当の価値が価格上昇によって見えにくくなります。
一方、不況時には、
- 賃貸需要のある物件
- 管理の良い物件
- 売却しやすい物件
- 適正価格の物件
- 過剰に借入れをしていない物件
が明確になります。
これからのタイ不動産市場は、「誰でも儲かる時代」ではありません。
知識を持ち、現地を確認し、数字を計算し、長期的に管理できる人だけが成果を残す時代です。
タイ不動産を購入する目的は、人によって異なります。
家賃収入を得たい人もいれば、将来タイで生活するために購入する人もいます。資産を日本以外へ分散したい人、子どもへ資産を残したい人、退職後の住居を確保したい人もいます。
重要なのは、他人が勧める物件を買うことではありません。自分の目的、資金、保有期間、許容できるリスクに合った物件を選ぶことです。
そして、購入前には必ず
「この物件は、なぜ貸せるのか」
「この物件は、なぜ将来も価値が残るのか」
「この物件を、将来誰が買うのか」
という3つの質問をしてください。
この3つに明確に答えられない物件は、購入を急ぐ必要はありません。
不動産投資では、買わないという判断も重要な投資判断です。
2026年のタイ不動産市場は、大きな転換点を迎えています。だからこそ、過去の成功体験や販売会社の言葉だけに頼らず、現実の市場を見て、物件を一つずつ見極める必要があります。
市場が良いから買うのではありません。
市場が悪くても成立する物件を買う。
それが、これからのタイ不動産投資において、最も重要な考え方です。
このタイ不動産講座は私が20年海外不動産を日本人の方に販売してきた経験と日本人が海外不動産投資で失敗してきた多くの実例を目の当たりにしてきた経験で解説しております。
これからも多くの日本人の方がタイもしくは海外で不動産を購入していくと思いますが、この講座をご覧になった方の中で一つでも失敗事例を防ぐことができたら幸いに思います。
また、別の角度から海外不動産の面白さをお伝えできれば幸いに思います。
タイ不動産講座を最後までご覧いただき誠にありがとうござました。次回はタイパタヤでお会いしましょう!




